紫わさび研究室

立ち止まった時、悩んだ時・・・日常にツーンとくる未知をお届けします

【4限目】いかにも北海道な北海道弁5選[名詞](前編)

今回の授業では、前編後編にわけて、なるほどいかにも北海道だな、という北海道らしさ溢れる北海道弁の名詞を5つに絞ってご紹介します。

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くまさんは手作りじゃないんです。

①【内地(ないち)】

北海道外(主に本州)のこと。

四国や九州のことは、そのまま四国・九州と呼ぶ人が多い気がします。

あくまでも個人の感じ方ですが、

無意識のうちに、「北海道にいる自分たちは、道外にいる他の人たちとは違うんだ」、という意識が潜在しているように感じます。その意識は、津軽海峡を隔てた物理的な距離に起因するものなのでしょうか、はたまた、歴史的な背景に起因するものなのでしょうか。

でも、不思議と、道内のことは、『外地』とは言わないんですよね。

 

ちなみに、沖縄でも沖縄県外のことを『内地』と呼ぶそうですね。沖縄出身の方を『ウチナーンチュ』、沖縄県外出身の方を、『内地』に人を表す"er"をつけて『ナイチャー』と表現するそうです。

北海道と沖縄、歴史の中で生まれた言葉は、後世までその土地に根付いて残っていくのでしょう。

 

②【汽車】

線路の上をはしるもの(路面電車除く)。

いわゆる『電車』も【汽車】と呼ばれます。そして、道産子が言う【電車】は『路面電車』のことを指します。

いったいなぜ、こんなことになってしまったのか、頭を抱えている皆さんと一緒に、紫わさびも頭を抱えます。専門家ではないですが、ツーンと考えてみました。素人の知識で恐縮ですが、お付き合い下さい。

 

線路を上を走る列車は2つに大別されます。電気によって動力を得る『電車』と、何かを燃やして動力を得る『気動車』(蒸気機関車ディーゼル車など)です。蒸気機関車のこと、または気動車全体のことを、『汽車』と呼びます。

汽車の『汽』の字に注目します。漢字の右側、『气』は、雲の流れを象形化しています。漢字の左側は、さんずい、水を表しています。これすなわち、水を含んだ雲、『汽』は訓読みで『ゆげ』と読みます。そう、湯気ですね。

明治時代に入り、鉄道が日本にやってきました、蒸気機関車です。もくもくと煙を出して走るその姿を、人々は『汽車』と呼んで讃えたことでしょう。その後、電気やディーゼルによって動力を得る列車がでてきます。煙を出さずに目に見えない電気で走る列車を見て驚いた人々は、『汽車』と区別して『電車』と呼ぶことになります。

 

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列車の上にパンタグラフがついてないですよね。ディーゼル車です。(※紫わさび撮影)

一方、北海道の大自然の山々の中では、線路は敷けても、電気を通す架線までは引けなかった。つまり、蒸気機関車に代わって、電車ではなくディーゼル車が発達していきます。

 

大正時代に入り、函館市と札幌市の市中心部では路面電車が開通します。路面電車は、架線を引き電気によって動力を得る列車です。道産子たちは、これを『汽車』と区別して『電車』と呼んだのです。通称『チンチン電車』で親しまれています。

 

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パンタグラフありますよね。昨今は『電車』も少しずつ増えてきました。(※紫わさび撮影)

皆さんお気付きでしょうか。そう、実は、北海道には、内地の方が想像する『電車』がないんです!(※昨今は電化区間が少しずつ整備され『電車』も増えてきています。が、その列車も漏れ無く『汽車』と呼ばれます。)

自分たちにとって未知なる存在(電車)に、自分たちが慣れ親しんだ言葉(汽車)を充てる、世の理に則った極自然なことですね。

 

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夢の乗り物『シンカンセン』です。(※紫わさび撮影)

2016年、北海道新幹線が開通し、ついに北海道の地を新幹線が走ることとなりました。道産子は、新幹線のことは『シンカンセン』と呼ぶことが多いようです。なぜ、ここは『汽車』ではないのかって?自分たちにとってまだまだ馴染みのない存在、内地・東京へと繋がる、電車とは次元が異なる『夢の乗り物』への憧れと畏敬の念が込められているからなのだろう、と思います。

 

まとめます。

蒸気機関車 → 汽車
ディーゼル車 → 汽車
電車 → 汽車
路面電車 → 電車
新幹線 → シンカンセン(夢の乗り物)

 

前編は、ここまでです。

後編に続きます。

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他のクセになる北海道弁講座も、こちらからどうぞ!

purple-wasabi.hatenablog.com

 


 

【3限目】便利な北海道弁【語尾】

本日もはじまりました、紫わさびの北海道弁講座です。

3限目は、語尾です。

 

語尾には、方言の顔とも呼べるような、とてもわかりやすい方言らしさが現れますよね。

もちろん、北海道弁にも特有の語尾があります。

そして、馴染みのない皆さんは、その種類の豊富さに驚くかもしれません。

 

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このステージかっこいいっしょ!これ手作りだっさー

基本形①【名詞+だべさ】

これが基本になっています。『〜だね』のように同意を誘う語感です。

「もう夏も終わりだべさ」(もう夏も終わりだね)

変形①-1【名詞+だべ】

最後の『さ』が落ちたパターンです。

「いやいや夏はこれからが本番だべ」(いやいや夏はこれからが本番だよ)

変形①-2【名詞+ださ(だっさ)】

真ん中の『べ』が落ちたパターンです。『〜なんだよね』と少しフランクな語感です。

「関係ないけど、今日私、生誕祭だっさー」(関係ないけど、今日私、生誕祭なんだよねー)

変形①-3【名詞+だべや】

 『さ』が『や』に変化したパターンです。 『〜だろ』のように男性が使う傾向にあります。

「それを言うなら、誕生日だべや」(それを言うなら、誕生日だろ)

変形①-4【名詞+だべか】

『か』に変わると、『〜かな』のように疑問文になります。

「…ところで、今日は何か特別な生誕を祝う日だったべか」(…ところで、今日は何か特別な生誕を祝う日だったかな)

変形①-5【名詞+だっけさ(だっけや)】

東日本で言うところの『じゃん』、西日本で言うところの『やん』に近しい語感です。最後の『さ』が『や』に変わるパターンは男性が使う傾向にあります。

「もう、それを言うなら『私の誕生日』だっけさ」(もう、それを言うなら『私の誕生日』だよ)

 

基本形②【動詞・形容詞+べさ】

『〜よね』のように同意を誘う語感です。

「誕生日プレゼントは、太古の昔からエアコンと決まってるべさ」(誕生日プレゼントは、太古の昔からエアコンと決まってるよね)

変形②-1【動詞・形容詞+べ】

最後の『さ』が落ちたパターンです。 

「おいおい、それはさすがにおかしいべ」(おいおい、それはさすがにおかしいよ)

変形②-2【動詞・形容詞+さ(っさ)】

先頭の『べ』が落ちたパターンです。『〜なんだよね』と少しフランクな語感です。

「ふっふ、実はさっき自分でエアコン買ってきたっさー」(ふっふ、実はさっき自分でエアコン買ってきたんだよねー)

変形②-3【動詞・形容詞+べや】

『さ』が『や』に変化したパターンです。『〜だろ』のように男性が使う傾向にあります。

「さすがに、さっき買ってきたはおかしいべや」(さすがに、さっき買ってきたはおかしいだろ)

変形②-4【動詞・形容詞+べか】

『か』に変わると、『〜かな』のように疑問文になります。

「でもさ、エアコンの設置って難しいべか」(でも、エアコンの設置って難しいかな)

変形②-5【動詞・形容詞+っけさ(っけや)】

『さ』の前に『け』がつくパターンです。『さ』が『や』に変化するパターンは男性が使う傾向にあります。

「暑いなら雪でも食べればいいっけさ」(暑いなら雪でも食べればいいでしょ)

 

その他【動詞・形容詞+っしょ(っしょや)】

「そうだよ、別に暑くないっしょや」(そうだよ、別に暑くないでしょうよ)

命令【〜すれ(〜すれや)】

「いいから黙ってエアコンつけれや」(いいから黙ってエアコンつけろよ)

疑問【〜でない?】【〜かい?】

相手に気持ちを寄せたニュアンスが含まれます。

「この部屋寒いんでない?」(この部屋寒いんじゃない?)

「この部屋寒くないかい?」(この部屋寒くないかな?)

「この部屋寒いんでないかい?」(この部屋寒いんじゃないかな?)

 

と、まぁ書きましたが、私は民俗学言語学の専門ではないもので、間違いがあればコメントでご指摘お待ちしております。

実は、北海道では、新築の家を除いて、エアコンのない家がほとんどなんですね。馴染みのないエアコンに憧れを抱く道産子たちの会話、この先が気になりますね笑

皆さんの地元には、どんな語尾がありますか?

 

もしご興味があれば、他の北海道弁講座も、こちらからどうぞ!

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【2限目】便利な北海道弁【うるかす】

本日の授業は、こちら。

【うるかす】

何を思い浮かべますか?
使用シーンを想像してみましょう。

あなたは、北海道に住む友人の家に遊びに行きました。友人の手料理に舌鼓を打ち、楽しい夕食のひとときは、あっという間に過ぎてゆきます。食後の団欒もひと通り落ち着いた頃のことです。親しき仲にも礼儀あるあなたは、食べ終わったお皿を持って立ち上がりました。すると、一緒に立ち上がった友人はこう言いました。

「あーそれ、うるかしといて」

さぁ、今まさに流し台と向き合っているあなた、どうしますか?

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自慢の手作りステージです。

正解は、

【うるかす(潤かす)】 (物を)水に浸漬させる

用途は非常に限定的です。
浸漬させる対象は主に次の2つです。

①(お米を)うるかす

お米を炊く前に給水させることを指します。
お米1粒1粒の中に水が染み渡っていく様子を表現しています。

②(調理器具・食器を)うるかす

調理器具や食器についた汚れを水でふやかすことを指します。
調理器具や食器の表面と汚れとの間に水分子が入り込み、剥離していく様子を想像してください。


非常に興味深いことに、
『水に浸す』との違いは、語感に時間の奥行きがあることです。
水が入り込んで行った先の結果を【うるける】と言います。
長湯をして皮膚がふやけることを、『指がうるける』と表現します。


ところで、なして、こんなに使用シチュエーションを限定する言葉が生まれたのでしょうかね。
紫わさびの推測では、気候が関係しているのではないかと思います。
北海道は水温が低いため、現代のような温水が常備されていない環境では、お米の給水に時間がかかり、また、洗い物も一苦労です。
その苦労に対する想い入れが、この『うるかす』という言葉を生んだのではないでしょうか。
北海道弁、奥深いですね。
では、また次の授業でお会いしましょう。

こちらの北海道弁もどうぞ。
purple-wasabi.hatenablog.com